~堕天使の笑顔、小悪魔のエゴ~
~堕天使の笑顔、小悪魔のエゴ~
僕は、あれから車椅子で生活を強いられてしまいました。
なんでも、うちどころが悪かったとか何とかなんだそうです。
脊椎を損傷した。
そんな小難しい話を何度も説明してくれました。
 
僕の周りの目は変わりました。
それは、とても優しいものに。
そして、すごく憐れんだものでした。
でも、不思議なんです。
だって、僕はそれを望んでいたはずなのにちっとも嬉しくないんです。
可笑しくなったのは、躯だけではないのでしょうか?
 
 
あんなにも、助けてほしいと願っていました。
あんなにも、優しくしてほしいと願っていました。
あんなにも、僕を分かってほしいと考えていました。
 
それが、叶ったのに。
僕は、ちっとも嬉しくないんです。
何故でしょうか?
どうしてでしょうか?
分からないんです。
 
怖いんです。
それは、とても。
だって、僕は怖いんです。
その笑顔や優しさが。
嘘に思えて仕方がないのです。
まるで、堕天使の笑顔に触れたよう。
そんな事を思う僕は、エゴの塊の小悪魔でした。
 
 
僕は腫れものなのでしょうか?
僕は触れたら壊れてしまうようなものでしょうか?
 
 
 
僕はおかしくなってしまいました。
そんな風に怯えているのですから…。
そして、何よりもおかしくなっているのは…。
 
 
「とても、苦しかったんです」
 
「虐められてはいません、そんなわけではないんです」
 
「怖かったんです」
 
「僕はとても汚い人間です。見捨てられたくなかったんです」
 
「綺麗事は嫌いです。そんな生き方ばかりしてきた自分がだから嫌いだったんです」
 
「ごめんなさい。そういう言葉はかけられたくありません…」
 
「いいんです。僕が悪いんです。僕は、悪い奴なのです」
 
 
何度も聞かれた事に僕は事実を答えました。
僕は、何もなくただ淡々と答えていました。
先生も警察も両親もその答えをとても聞きたがりました。
 
みんなが気遣いをしてくれました。
それは、やっぱり苦しいものでした。
夢がかなったのにも関わらず苦しんでいるなんて…馬鹿みたいでした。
やっぱり、自分が嫌いになりました。
けれども、そんな風に求められるから周りの人に伝えなければならないのです。
 
 
―パシン
乾いた音。赤い頬。飛んできた泪。
飛ばされたひざ掛け。床にたたきつけられる。
掴まれる。睨まれる。そして、また殴られる。
混乱する頭。痛い。
痛い。痛い。痛い…。
とても、痛かった。
 
 
「馬鹿野郎!! どうして、あんなことしたんだよ!?」
彼が何を言っているのか分からない…。
きっと痛みのせいで頭が混乱しているんだ。
 
「どうして…もっと、頼ってくれなかったんだよ…俺はそんなに頼りないかよ!!」
彼がどうしてもう一度僕の事をはたいたのか分かりませんでした。
もっと痛くなって、なにがなんだかわからなくなりました。
 
「お前、どうして……この大馬鹿野郎!! お前なんて、死んじまえ! …死のうとする馬鹿なんて、お前はなんで!! 死ぬなよ!! そんな事…しゃれになんないだろ!!」
彼に乱暴な言葉を掛けられなければならないのか、僕にはまったくわかりませんでした。
とても、痛かった。
でも、それは頬なんかじゃありません、心がとてもいたかったんです。
 
 
「じゃないと、お前に救われた俺が…馬鹿みたいじゃないか…」
 
 
ほしかった、いたわりの言葉ではないのに…。
とても、乱暴なものなのに、どんな親切よりもそれが嬉しかったんです。
僕はおかしくなってしまったのでしょうか?
 
 
 
その言葉を皮切りに、僕の周りの人々は僕を叱り始めました。
僕のした事を、何と愚かな事をと罵りました。
その言葉が、とても痛くて辛くて、汚くて…。
 
 
でも、とても温かくて気持ち良かった。
みんな嘘をついている。
本当の気持ちとは反対の事を。
偽りばかりを云われてしまうのです。
 
 
でも、どうしてでしょう?
そんな言葉こそが、僕を救ってくれました。
なぜでしょう?
こんなにも心が救われていくのです。
僕には理解できませんでした。
 
 
でも、きっとそれでいい。
 
 
飛び降りてから、ずっと。
出来なかった事がある。
けれども、僕は今こんなにも泣いている。
泪が止まらないんだ。
でも、それでもいいのかもしれない。
泪は悲しい時にだけ流れるものじゃないから。
 
 
 
 
ありがとう。



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