どうしたらいいのか、また分からなくなってしまった。
ギターを片手にとって、適当にリズムを取る。駄目だ…今日はのらない。
どんなに頑張っても、全然乗る気がしなかった。
そういえば。どうしてギターを始めたんだっけ…。
なんだか、すごく恥ずかしい思い出だった気がする…。あぁ、なんだか顔が赤くなってきた。
あぁ、なんとなく思い出してきた。やばい、凄く恥ずかしい…。そうだ、だって同じようなノリで高校も決めてたじゃないか…って!
そんな事はどうでもいいんだ! そうだ、そうなんだ!
今は鳴海清彦について考えよう。
と、考えてみたものの結局何も浮かばず、ギターも上手くいかずなんだかな…。と思っていた。
もう全てがどうでもよくなり、一度声をかける事だけを決心した。
決心したのだが……。
こして今、一度も声をかけることなく放課後を迎えていた。
そして、更に残念な事に焦った気持ちに後押しされる形で声をかけたのだった。
「一緒にかえらないか?」
と一言。
正直、云った俺ですらあり得ないと思った。馬鹿にも程があるだろう。
だって…なぁ?
初めての会話で、帰路をともにしようなどとは何たる変態。
ぶっちゃけありえない。
と、姉貴ならそういって嘆く事だろう。
じっさい、そんな言葉が似合いそうである。
双方終始無言のまま、とぼとぼと歩きつづけている。駅までの道のりは、近い方ではなかったが、かなり遠く感じた。
彼が駅を利用しているのかですら、しらないが…恐らく利用している……だろう。
そうか…だとしたら駅まで続くのかよ…これ。
そして、やっぱりそうなりかけた時だった。
「あのさ、君…」
唐突に、あいつが話しかけてきた。
「え!?」
変な声が出た。自分でも、吃驚してしまうような裏声ぶりだった。
「ギター……好きなの?」
「え?」
意外だった。
何故こいつは…鳴海は、俺がギター好きなのをしっているのだろう?
しかし、その答えはすぐに想像できた。あ、そうか…この前のあれをみていたのか…。
誰も、気にしていないと思ったのに…。
「結構……。えっと……好きだな」
「そっか」
それしかいわなかったが、なんだか俺はありがたい気持ちになった。
好きな事を褒められると嬉しいもんである。
それだけ、本当にたったそれだけしか会話をしなかった。
なんで、一緒に帰ろうなんていいってたんだろう。
次の日、学校について鳴海を見たが特になにもなかった。
昨日の事なんて、まるで無かった様だった。
いつも通り真面目に座って、黙々と本を読んでいるか教科書を開いているし、あぁやっぱり何事もなく終わるのか…なんておもっていたのだった。
しかし、そんな俺の考えは大きく外れるのである。
昼休みになり、ご飯が食べられる! なんて、軽くうかれながら健吾たちなんかといつものように机を4つくっつけて、テーブルを広くして、さらに弁当を広げた時だった。
急に椅子をおき、鳴海が席にやって来たのだった。
その様子に、俺達は何もできなかった。ていうか、何をしたらいいのか分からなかった。
何故、ここに来たのかがわかる俺だけは、なぜか変な気持がした。別にやましい事をしたわけじゃないのだが…冷汗が出た。
そんな俺達の様子を知ってか知らずか、分からないが涼しげな顔で鳴海は可愛い包みの袋を机に置いた。
「これ、昨日の御礼。別に、お礼をするような事でも無かったけど……ここは素直に云うよ。嬉しかったんだ」
「……はぁ」
「これは、うちの母が焼いたクッキー。あの人はそう云うのが趣味だから味は保証しておくよ」
俺達のやり取りに、周りは唖然としていた。
何が起こっているか分からない、といった感じだった。
実際、俺も分かっていなかった。
考えてなかった…そうだ
「……なんだろうね、自分でも結構驚いてるんだ……。こんなに、大胆な行動に出るなんて」
ここまでいうと、鳴海は笑った。
初めて、笑った顔を見た。
「あ、でも…あれかな、えっと……ギター君には負けるかな?」
「…はぁ」
本当にまわりはどうしかねるか迷っている感じだった。
そうか、ここは俺が何とかしなければならないのか…。
「ギター君じゃない…酒井、酒井拓也な。んまー、昨日は一緒に帰ってたのしかったよ、うん」
と、俺が説明をするようにいう。アイコンタクトをなんとなく健吾に送った。
「あーなるほど、わかった」
「もしかして…僕がいたら気まずいのかな? だったら…それはそれで、潔くここから離れるよ」
と、鳴海が席を立とうとした。
「なんで立つんだよ、つまりあれだろ? お前は、これを機会に仲良くしたいとかそういうのなんだろ?」
「……そうだねそう云われると痛いけど、別にやましい事じゃないと僕は思うから、素直に認めるよ、確かにそう思った」
「そうか…」
健吾はただそれだけいった。
「じゃ、いいんじゃないか? 俺は、こういうさっぱりしたタイプ嫌いじゃないし…それに悪くないと思う」
「がり勉は……、ま、いいんじゃないか? お前がそう思うならさ」
と、健吾はいった。
その言葉に「まぁ、おれは知らないけどな」という語尾がついたようなきがした。恐らくそういう意味合いでいったのだろう。
「そっか、それは…ありがとう。こういうのも、なんだか童心に返ったようでなんだか、赤面してしまうけど、どうも鳴海 清彦です。みなさんなにとぞよろしくお願いします」
「あはは、おまえうけんな、そんなかたっ苦しい挨拶する奴ふつーいねーって」
「そうだろうか? こういう場は、確りすべきだと俺は肯定しておくよ。ファーストインプレッションは大事なものだからね、そこは厳格にしても、なんの不思議もない。それともなにかな?僕が、可愛らしく高校生女子のような黄色い声で自分を名前で言いながら説明したり、逆に不良のように巻き舌でもつかって、威厳を表した方がよかったのかな?」
この鳴海の一言に笑いの渦がどよめき、すぐさま俺達のグループに鳴海が溶け込んだのは云うまでもなかった。
鳴海が入った事で、グループに後ろ指を指されるかとも思ったが、特に何もされなかった。
それどころか逆に、集団になった強みと云うか、あいつにいじめのようなモノが無くなり、更に鳴海に対する周りの目も、態度も少 しずつ改善されていった。
BACK …Wait.
backoutΘ