子猫のいる生活5
一章 3/3

それから、暫くしてヒューロ爺が云っていた。
 
極度の疲労と栄養失調だが、しばらく安静にして
栄養のあるものを与えれば問題がないらしい。
 
いまは体力も落ちているだろうから、ご飯を食べられないかもしれないが
それでもきちんと食事を取らせねばならないそうだ。
 
「…ただね」
 
「ただ?」
 
身体の腕や鳩尾のあたりなど
目立たないところにある傷は、癒えないそうだ。
 
傷としては完治するが、その痕は残ってしまうそうなのだ。
 
「随分と酷い扱いを受けていたんだろうね…
フィー君の憶測は、きっと間違っていないだろうね…。
 
やっている事が、正しいかどうかそれは、誰にもわからない。
でも…忘れないでいてほしい、この老いぼれはいつでも君の味方だよ」
 
「…ヒューロ爺」
 
「ロゼも云っていたように、君は優しくていい子だ。
だから、そんな風に不安そうな眼をしてはいけないよ。
 
どんな理由であれ、どんな境遇であれ、
君はこの少年を助けることを誓った。
君は知っているだろう。命がどんなモノかを。
 
君が軽い気持ちで決断したんじゃないのは分かっているが、
それでもそんな気持ちじゃ足りないぐらい重い物だ。
 
こんな職業をしていると、厭でも身にしみるのさ…。
…こういってはなんだがね、君の両親にはそれが分からなかった。
でも、フィーは違うだろ?
 
それがよくわかるよ。
あの頑固で傲慢なばばぁが、こんなに家をきれいにしたことは…
記憶をどんなに振り絞ってもなかったと断言できる。
たとえ、衰えていても、だ」
 
ひょうきんな笑だったが、私はその笑に対して怒りを覚えなかった。
 
むしろ、そんなお茶目なところに笑ってしまった。
 
「じゃあ、私はそろそろお暇するとしようか」
 
そういって、部屋を後にするヒューロ爺のうしろを、
セネットさんが追いかけるように出て行った。
 
 
 
 
二人きりの部屋。
 
私一人が残された家だった。
 
ここは、私の家ではなかったけれども…それでも私の居場所だ。
 
少しだけ広いこの家の中で、私が選んだお気に入りの部屋。
 
心地よい日当たりと、目の前にある草原から心地よい空気の入るこの場所。
 
日当たりのいい日は窓辺のロッキングチェアーに腰掛けて、作業を黙々とするのだ。
 
そうすると、流れる雲を感じながら優雅な時間を過ごすことができる。
 
そんな、場所だった。
 
友達が遊びに来た時も、この場所だけは案内しなかった。
 
この心地よさと、過ごしやすさを誰にも奪われたくなかったし
…誰かにけなされたくなかった。
 
私はこの場所を、私だけのモノにしたかった。
 
ここにいた、あの人もここがお気に入りだったから。
 
あの人がいない今は、私だけのもののはずだった…のに。
 
「君は…簡単にここに、おとずれたんだね」
 
と、笑った。
 
そもそも招き入れたのは私なのだが。
 
それにしても、この子には驚かされた。
 
とてもきれいな顔立ちと、この長い髪からてっきり女の子だと思ってしまった。
 
絹のような肌と、まるで光のような美しい髪の毛。
 
私なんかじゃ、到底比べられないような美しいもの。
 
「…ねぇ、君は……誰なの?」
 
質問された本人は、静かに胸を上下する。

そのわずかな動きがなければ、人形であると錯覚をしてしまいそうだった。

目覚めるまでのわずかばかりの幸せの時間だった

 ←BACK NEXT→

ΘbackoutΘ