桜色交響曲3

第一章~桜~ 1/5

 
その日は、なんとなく早めに家を出た。

ちょっとやそっとじゃない。

40分程早かった。

学校に行って帰ってきたら出発時間になれるかもしれない。

それぐらい早かった。

特に理由もなかったのに、何故かその日は早く家をでた。

本当に、なんとなく。

今にして思うと、もしかしたら呼び寄せられたのかもしれない。

もしこれが、少女マンガとかそういうものだったら、

運命の出会いとか書かれたりするのだ。

運命の出会い?
 
そうかもしれない。


 
春になり、桜が咲いていて。

それはこれでもかといわんばかりに

花開きあたり一面にピンクの絨毯をつくっている。

満開だった。

それを見ただけで、早起きは三文の得だな、なんて思ったりしていた。

ぼんやりしていた。そんな時だった。

『君、君…そこの君』
誰かに呼ばれた気がした。

だがら、とっさに振り返る。誰もいない。

気のせいかと思ったが、すぐに…。
『そうそう、君だよ。振り向いたでしょ…?
 

残念ながら見る所がちょっと違うんだなあ、これが』

気のせいではない。

それは、女の声だった。
というよりも女の子の声と云った方が正しそうだ。
その声を聞く限りの印象では、たぶん

…年はあまり変わらないだろう。

でも、まったく聞き覚えのない声だった。

思えば、この時に違和感に気付くべきだったのかもしれない。

だって…。

「……あのぉ、どちらさまですか?」

『どちらさまっていわれてもなぁ、分からないんじゃないかな?

だからさー、たぶん口で説明するよりも見てもらった方が早い。

うん、そうだよ。そうしよう。

だから、振り返って上をみて?』

軽快な口ぶり。

でも何故だか、逆らう気にはなれなくて俺は云われた通りにした。

……。

目をこする。

頬を叩く。
…あれ?嘘だろ?
…あはは、あっははは…。

もう一回、下を向いてから、上を向く。

そして、今度は目を見開いた。

…なんて云う事だ。

嘘じゃない。

現実だ。

いや…あれは現実のもんじゃない。


足が地面についていない…向こう側が見える…。

しかも、よくよく考えると、

俺の脳内では大好きなバンドのミュージックが流れているわけで

あんなにはっきりと声が聞こえるのは物理的に考えておかしい…

…もしかして、これが……。

「……ゆ…幽霊?」

『そういうこと。
ね!いったでしょ、口で説明してもわからないって。

私がこんなんだからなぁ…。

ほら、見た方が早いでしょ!!』
なんて、無邪気に笑われてもただ困るだけである。

……なんなんだ、コレは。

「………」
夢に違いない。だって、そう思うし…。
いやいや、厭な夢だ。
早く冷めてしまえば云い。
覚めろ、覚めるんだ!俺の夢。

もう一度、今度は強く…パチンと頬を叩いた。

夢じゃない。

…科学で証明できない事が、現在三つ。
ひとつ、女の子がういていること。
ひとつ、その女の子がすけていること。
ひとつ、その声がイヤホンをしている耳に直接聞こえていること。

『そんなに、恐ろしい顔しないでもいいじゃない…拓也君』

「うわああああああああああああああああああああ」

俺は、情けない悲鳴をあげて一目散に走り去っていった。
 
だって、ありえない。

何故、彼女は…いや、彼女と云うよりは、アレと云った方が正しい。

アレは、俺の名前を知っていた。

これは、幽霊を見るより恐ろしい事。
あぁ、でも俺は幽霊をみたから怖かったわけで…。

でも、幽霊が
俺の名前を呼んでくるから恐ろしくて…

ていうか、知っているのが怖いわけで…

あぁ!!おちつけ、おちつけよ、俺。
訳が分からなくなっている。
いつも、クールって程じゃないけれども、
それなりに落ち着いている筈なのに…。

おもっている事は支離滅裂だし。
同じ考えを行ったり来たりしている。
あぁ、最悪だ。どうしよう。

誰か、助けて下さい。

とおもっていると、話しかけてくる奴が一人。
 

クラスメイトの笹木野健吾だ。

今、俺の一番の友人だ。

明るい性格と軽いノリがうりの面白いやつ。


そんなやつだからなのか、空気を読むのがとても下手だ。

今、俺はものすごく悩んでいる、そんな時に限って健吾ときたら。

「ん?どうした、拓也。今日は顔色悪いな…。悪いもんでも喰ったか?」

なんて、聞いてきた。

おい、それはお前。

俺の顔色が悪い=悪いものを食べた。

と、なるんじゃないか?
 俺は、そんなに食い意地が張っているわけじゃない。

と、言い返したかったがそんな気力もなかった。

健吾らしいといえば、らしいのだが……なんだか、腑に落ちなかった。

溜息一つ。

それを悟って気を利かせるような奇跡が起こったのか。

はたまた、もうあきてしまったのか、

暫くすると健吾はすたすたとどこかへいってしまった。
 
 

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