第一章~桜~ 5/5
朝、誰とも話をすることなく、俺は学校についた。
もう、何日目か分からない。
たとえ話しかけられたとしても、それを返さないのなら話した事にはならない。
話しかけられて、無視をするなんて子供っぽいと
思ったがそんな事を気にしている余裕がなかった。
たった一言云われただけで、こんなに傷付いて
落ち込むなんて…ほんと、俺って…。
なんで、こんなに何日もくよくよしてるんだろう……
「酒井…おい、酒井!!」
「えっ!?あ、はい……」
「お前、ほら早く前に出ろ」
「え? ……あの」
数学のゴリゾウ(ゴリラみたいな、体格とゾウのような
授業の速度からそうよばれている先生)が、こちらをみている。
いや、ゴリゾウだけじゃない…クラスメイトが全員。
「……えっと」
どうやら、おれがさされたみたいだが…全く何の事だか分からない。
頭の中が真っ白だ…適当なところで開かれた教科書を見ても、
白紙のノートを見てもなんの役にも立たない。
沈黙が…つらい。
「……6ページの問8……」
ゴリゾウをさらに怪訝な顔をし始めた時に、ようやく助け船が出た。
ありがとう、健吾。
やっぱり、持つべきものは友だ。
ちょっと、気持ちがすっきりした。
俺には、こうして助けてくれる友達がいるじゃないか…。
虐められてもいないし、無視されてもいない。
俺、何なやんでたんだろ…。
どうして、悩んでいたりしたんだろ…。
その日家に帰る道が、少しだけ晴れやかに思えた。
明日は、ちょっとはめをはずしてみたくなった。
そうしてだろうか?そうだ、ギターを持っていこう。
もしかしたら誰かが、褒めてくれるかもしれない。
もしかしたら、クラスの中心でちやほやされるかもしれない。
明日が楽しみだった。
丸一日無視をしても、桜は一昨日までと同じように挨拶をしてきた。
でも、俺は昨日と同じでそっけない態度しか取れなかった。
でも、根気良く話しかけてくるなんて……。
何なんだよ。
それから俺はずっと、そんな事を考えながら教室へとやってきた。
「あれ…お前、なにそれ?」
「何って、みてわからないのか?」
「……いや、そりゃあ分かるけどさお前。なんで、そんなのもってきてんの?」
そらきた、そうやって食いついてきた。
ちょっと、どきどきしながらそれでも誇らしげに俺は云った。
恥ずかしい気持ちもあったがそれでも、ギターを弾けるという優越感に浸りたかった。
だから少しだけ勿体ぶって…。
「そりゃあさ…」
「そりゃあ?」
「実はギターやってるんだよな」
ほらいってやった、驚くんだろうと思っていた…しかし、健吾は笑った。
「お前が?ギター? まじで?」
「……なんだよ」
「似合わねぇ…。超、似合わないんだけど、お前…それ本気でいってんの?」
彼の言葉は、決して心から馬鹿にしているわけではない。
本当に、俺の事を貶そうとかそう云う訳ではない。
ただ、単に思った事を軽々しく口にしただけだ。
だからこそ、おれは無性にくやしくなった。
俺にとって、ギターとは健吾に軽々しく馬鹿にされてしまうようなものだったんだ。
そう思えてた。
「あぁ……」
「はは、大丈夫だってそんなギターなんかしなくてもさ…」
「……だよな」
健吾はきっと、俺の事を励ましてくれているつもりなんだろう。
でも、それは俺の事を馬鹿にしているんだ。俺の事をとても馬鹿にしている。
あぁ、そうか。
そうなんだ。
ふと、少しだけ昔の事を思い出した。
俺の心を絶った一言で砕かれた事があった。
「お前には、似合わないよ」それは、親切のつもりでいったんだろう。
でも、俺はその言葉にとても傷ついた。
今もその時も変わらない、いつだって俺の周りにいる人間は上辺だけしかみていないんだ。
俺の事を本当に考えたりしてくれていないし、俺だってそうだ。
そんな周りの奴らに、上辺だけを合わしている。ただ、流れに身を任せて生きているだけで…。
そうしていれば楽だからだ…。
今なら分かる、桜の言葉が……。
痛いほどに分かる。
俺は、生きて居なかったのかもしれない。
心が、死んでいたんだ。
帰り道。
ほら、ここを通ればあの子が優しく声をかけてくれるはずだ。
『おかえり……あれ……拓也君?』
「……うん」
『どうしたの?』
俺は、卑怯かもしれない。
あんなにも桜を否定していたのに…困った時になったら、こんな風に甘えようとするなんて…。
「…ごめん」
それだけしか云う事ができなかった。
『うぅん、私の方こそごめんなさい』
「……」
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