桜色交響曲9
「おい、鳴海」
声を掛けてきたのは、学校の中でもあまり風評の良くない生徒だった。

できれば、そんな奴とは極力関わりたくないし、彼等に対する風評だって聞きたいとも思わない。

「……何?」

「お前さ、生意気なんだよ」

「…どうして、そんな事を云われなきゃならないんだ?」

すると、そいつは嫌な笑みを浮かべた。

「お前が、生意気だからだろ?」

という、何とも理不尽な理由である。

「生意気…って、どんな…」

「そういうところだよ!!このぼっちゃんがよおぉ」

「それで、僕が何を?」

僕の襟首を掴みながらどなり散らす。

こうして、何かを口走るだけで逆なですると悟りながら、僕は口を動かす。

「んだとぉおぉぉ?え? いいとこでのおぼっちゃまには、分からないですかねぇぇ?
あぁ、っざけんなよぉぉ!? ん、つったぁ?」

「別に、なにも云っていないけれども」
躯体状況を説明したところでなんの解決にもならない。

何故なら、彼の行動の所以は「むしゃくしゃしていた」

やら

「なんとなく、目についた」であろうからだ。
だから、僕には反省すべき点も、それを逃れる事も出来ない。

ならば、黙って見過ごしてもらえるまで、脅えていれば済むであろうが。
妙なプライドがそれを許さなかった。

彼をこうして、嘲り、罵り、憐れみ、見下す。

 

最低な愚行だとは思う。

しかし、今の僕にはそれが許されている。

 

 「てめぇ!!!」

あとは、語るまでもない。

今まで、暴力でしか感情を表さなかったようなヤツの、
悔しいけれどもその鉄槌をものの見事に食らい受け、顔を腫らしてかえったのである。

逃げ帰る様に学校に居る時に、誰かにぶつかった。

そいつは、謝りもしなかった。

やはり、この学校に来なければ良かったのかもしれないと泣きっ面に蜂とばかりに痛切に感じたのである。

一か所、や二か所ではないその傷を見て、母何と絶叫するかと些かの不安はあった。

が、結局母はその顔を見て怪訝な顔をしたが何も云わなかった。

僕は、それを良しとした。

妙に、心配をかけるわけにはいかない。

そうやって、干渉しようとせずに見て見ぬふりをした母に、安堵を覚えたのである。

最低な日常であると自覚している。

しかし僕は何も変わることができないと相場が決まっているのである。
 
嘆くつもりはない。けれども。

不快に思うくらいの権利はあると思いたかった。

こんな日常なんて、消滅してしまえばいい。
 
 
 

そうも変わらないそんな日々。

けれども、そんな生活にある日回復の兆しが指したのだった。

それは、とある日の朝の事である。
いままで、会話も交わした事もない…それどころか、ろくに顔も知らない。

そんなクラスメイトの事がきになってしまったのである。

いままで、僕は、そんなモノに関心を寄せた事などなかったのに俺は彼にひきつけられたのである。

その理由は至極簡単で…。

彼が、ギターを背にしていたという事だった。

僕は心のどこかで、彼がそれを取り出して今すぐ聞いてくれるのではないかと淡い期待をいだいたのであった。

僕は何をかんがえているのであろうか?

彼が何をしようと、僕には関係のない事ではないか。

理解している、しかしそれを、おいそれと飲みこむ気分にはなれなかった。

しかし、彼はそれをケースから出す事はなかったのである。

それも、そうか。

何故、一人寂寥の中に居るのだろうか?

その時はそれが兆しであったと気がつかなかった。
 
 
 

性懲りもなく。意味もなく。ただ、殴られていた。

推測するに、彼等の虫の居所が悪かった。それぐらいの安易なものであろう。

さながら、彼等にとって僕は生きたサンドバックのような物なのであろう。

無様な生き方すぎて、反吐がでそうだった。

「清彦……その、」

「あぁ、これはですね。今日体育の授業でボールがあたりまして…心配をかけたのならすいません…」

「そうね…貴方、昔から運動と名のつくモノは、からっきしだったものね…」

今は、これでいい。

母は、なにも知るべきではない。

腐敗したような生活だ。でも、仕方ない。

だから、諦めていた。何をと云われると言葉に詰まるのだが、とにかく諦めていたのだ。

けれども、あの時。本当に僕の日常は変わったのだった。
 
 
 
帰宅しようと鞄に手を掛けて、そろそろ教室を
出ようとした時だった。

「一緒にかえらないか?」

「え?」

それが、酒井 拓也との長い付き合いの始まりであり、人生の一つの転機であったのだった。
 

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